申請者らは、細胞老化・不死化の分子機構を系統的に解析するために、ヒト二倍体線維芽細胞MRC-5にSV40T抗原遺伝子を導入して複数の独立な不死化細胞クローンを得、細胞老化・不死化の過程を追って細胞クローンを比較解析できる系を樹立した。この系を用いて2年間の研究期間に以下の成果を収めた。(1)細胞の不死化は、細胞増殖が停止するクライシスの時期に何らかの変異が細胞に生ずることによって起こることを明らかにした。(2)type I collagenase遺伝子の発現が細胞老化とともに劇的に誘導され、不死化とともにほぼ完全に消失することを明らかにし、その転写調節機構が細胞老化・不死化のメカニズムに密接に関係していることを示した。(3)collagenase遺伝子の細胞老化・不死化過程における発現調節は、転写開始点上流約1.7kbpのISE1およびISE2と名付けたcis-elementsに結合する2種の転写因子、すなわち転写活性化因子Plutoと転写抑制因子Orpheusの相互変化によって担われていることを明らかにした。不死化前の若い細胞と不死化細胞ではOrpheusが優勢に働いてcollagenase遺伝子の転写を抑制しているが、老化細胞ではPlutoの働きが優勢となってcollagenase遺伝子の転写を活性化していた。興味深いことに、不死化細胞におけるcollagenase遺伝子の転写調節状態は、不死化前の若い細胞とほぼ同じ状態に戻っていることが明らかとなった。(4)southwestern法によりOrpheusの候補遺伝子として、不死化細胞cDNAライブラリーよりSSRP1(structure-specific recognition protein 1)をクローニングし、Orpheusの結合活性の認められる不死化前の若い細胞と不死化細胞において、ISE2を介した転写抑制活性を示すことを明らかにした。(5)Plutoの結合能の特徴から、候補遺伝子としてNFAT類似遺伝子の可能性を考え、老化細胞cDNAライブラリーよりNFAT familyに属する新しい遺伝子をクローニングし、全長cDNAの塩基配列を決定した。
|