成人由来皮膚線維芽細胞の遊走は培地中の血清に依存することから、成人皮膚線維芽細胞はPDGFとコラーゲンの刺激により遊走し、他方、胎児由来皮膚線維芽細胞は血清に依存せずbFGFとコラーゲンを自ら産生しその刺激により遊走することを見つけた。本年度は、皮膚線維芽細胞の遊走が老化で低下する機構の解析のため、主に、細胞増殖因子に注目し検討した。第一は、細胞遊走が血清に依存しない胎児型(オートクリン型)から血清に依存する成人型(パラクリン型)に変わる時期を検討したところ、胎児と乳児の間にあることが分かった。幼児由来皮膚線維芽細胞では成人のものと同じで、また老人由来皮膚線維芽細胞も同じ性質であった。乳児由来皮膚線維芽細胞は胎児型と成人型の中間であった。第二は、この胎児型、成人型の性質がインビトロ細胞老化で変化するかを調べたところ、変化せず安定であることが分かった。第三は、bFGFは胎児線維芽細胞の遊走には効果を持つが、成人、老人線維芽細胞の遊走にも効果をもつかどうかを検討した。増殖因子の非特異的阻害剤スラミンによる遊走阻害を回復する能力を血清添加培地を用いて測定したところ、胎児線維芽細胞のみにbFGFによる回復効果が観察された。PDGFが胎児、成人、老人皮膚線維芽細胞の遊走刺激になっているかを阻害剤を用いて検討したところ、PDGFは全ての皮膚線維芽細胞の遊走促進刺激になることが分かったが、胎児と老人由来皮膚線維芽細胞ではPDGFへの感受性が低下していた。第四は、bFGFは胎児皮膚線維芽細胞だけでなく、成人、老人皮膚線維芽細胞でも産生されているかを、細胞蛋白をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離しbFGFの抗体を用いてウェスタンブロット法で調べた。bFGFは、胎児皮膚線維芽細胞だけでなく成人皮膚線維芽細胞でも産生されていることが分かった。
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