インビボ、インビトロ細胞老化に伴い、剥離された空所へのヒト皮膚線維芽細胞の遊走能は低下する。この遊走能低下の機構を解明するため遊走調節因子を検討した。前年度までの結果で、胎児皮膚線維芽細胞はbFGFとコラーゲンを自ら産生利用し遊走しており、成人や老人皮膚線維芽細胞は血清中のPDGFとコラーゲンを利用して遊走していることを見いだした。なぜ、成人や老人皮膚線維芽細胞はbFGF刺激で遊走していないかを調べるため、FGFレセプターmRNAの発現をノーザンブロット法で検討した。その結果は、bFGFが結合することが知られている4種のFGFレセプターのうち、FGFレセプター1のみが検出された。その発現量は胎児、成人、老人線維芽細胞の順番に低くなるが、この量的差異で、成人および老人線維芽細胞がbFGFで遊走が促進されないのかを説明されない。インビトロ細胞老化で、胎児線維芽細胞のFGFレセプター1mRNAの発現も、減少する。次に、ヒト皮膚線維芽細胞の遊走の抑制とコラーゲン合成の関係を検討した。インターフェロン-α、β、γのうち、インターフェロン-βがヒト胎児線維芽細胞の遊走を抑制した。この抑制は濃度依存的で、また、インターフェロン-βの中和抗体で抑制されることから特異的である。2重鎖RNA処理により細胞遊走が抑制された、これはインターフェロン-β産生が誘導される条件なのでうまく説明される。細胞遊走が抑制されるインターフェロン-βの濃度で、コラーゲン合成は抑制された。他方、成人血清はヒト皮膚線維芽細胞の遊走を45%抑制した。このとき、コラーゲン合成も抑制されていることが見られた。これらの結果は、コラーゲン(合成)と細胞遊走が強く相関していること、おそらく、細胞遊走能の細胞老化での低下の主要な原因はコラーゲンであることを示唆する。
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