研究課題
免疫系は生体防御にとって重要な役割を果たすが、加齢に伴い免疫機能は低下する。大部分は量的・質的変化を生じるT細胞に依存した機能に起こる。最も重要な変化は抗原刺激後の細胞増殖能の低下であり、加齢に伴う細胞内情報伝達系の異常である事からT細胞における細胞内情報伝達系の如何なる箇所に加齢変化が認められるか検討した。T細胞のレセプター(TcR)、細胞膜内PIP2量およびPLG活性において老齢・若齢間に差が認められなかった。しかし、刺激後のセカンド・メッセンジャー産生量は老齢マウスT細胞で低値を示した。この事から刺激がTcRを介しPLC活性化を引き起こすG蛋白、タイロシンカイネース(PTK)に加齢変化が認められるかを樹立したマウスT細胞株を用いて検討した。老齢・若齢マウスT細胞株からmRNAを抽出し、ケンセンサス領域(ref)に対して作製したプライマーを使用してRT-PCRを行い、T細胞株に発現するG蛋白(6種)、PTK(14種)を同定した。ノザン・ブロット法により老齢・若齢T細胞株での発現の違いを調べると、G蛋白では老齢T細胞株で高値あるいは低値を示した。また、PTKでは非レセプター・タイプでは老齢T細胞株で低値を示し、他のレセプター・タイプのPTKでは高値を示し、G蛋白やPTKに加齢変化が生じていることが認められた。これは、TcRを介する抗CD3刺激と、TcRを介さないPMA+IOMの刺激による増殖能、細胞内Ca^<+2>濃度を測定すると、TcRを介した刺激では老齢T細胞株の増殖能、Ca^<+2>濃度増加が若齢T細胞株に較べ低値を示した。しかし、TcRを介さない刺激では、老若齢T細胞株で差は見られなかった。以上の事から、PLCの活性化へと導く、G蛋白やPTKになんらかの加齢変化が起きており、若齢T細胞株ではTcRで受けた刺激をG蛋白やPTKらは正確にPLC活性を高め以降の情報伝達系がスムースに働いている。しかし、老齢脾臓T細胞ではTcRで受け取ったシグナルがある種のG蛋白やPTKの異常でPLC活性を高めることが出来ず、情報伝達系に異常事態が起こっている事が示唆された。
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