(1) 寒冷地域での石造遺跡保存の調査 小樽市の手宮洞窟の保存についての基礎研究を2ケ年にわたって実施した。調査の内容は、洞窟基盤の温度、湿度、変位、地下水位の各季節変動である。現地調査は、遺跡を管理する小樽市教育委員会の協力を得た。記録期間は1994年5月-1995年3月である。これらの記録について解析を行っている。 (2) 風化基盤岩石の物理的性質の計測 手宮洞窟を構成する基盤岩体(新生代第三紀凝灰岩)から20mのボーリングコアー採取を行い、これらのサンプルについての空隙率、超音波伝播速度の物理計測を行った。その結果、空隙率が20%を超え、また超音波伝播速度も1.5km/sec以下であることから、風化に伴う空隙孔の拡大と造岩鉱物の化学的溶脱が進行していることが分かった。こうした物理的性質を反映して、現地での洞窟背後からの地下水浸透とそれによる塩類の集積がさらに岩石の劣化を促進するものと判断された。 (3) 合成樹脂による劣化岩石の処置とその評価 風化し劣化した岩石をシリコン樹脂(メチルエチルトリキシシラン-SS-101)で処理すると、凍結破砕への抵抗性が増加することが知られている。そこで手宮洞窟の場合にも、この樹脂による効果が発生するかの判定試験を行った。処理後の含脂率は8-12%であった。他の樹脂(アクリル系やエポキシ系)と比べて、シリコン系樹脂は岩石への浸透性に優れる。凍結-融解試験(-10℃〜+10℃)で10サイクルの試験を行った。底部にクラックが発生した1試料を除いて、凍結による破砕は生じることはなく、シリコン系樹脂の有効性が確認出来た。 (4) 結果のまとめ 手宮洞窟の管理者(小樽市教育委員会)の協力を得て、現在調査報告書をまとめつつある。6月中旬には出版する予定である。
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