北海道には、野外の石造遺跡として、小樽市手宮洞窟、余市町フゴッペ洞窟などがある。いずれも、第三紀凝灰岩から構成され、劣化に対しての抵抗性は弱い。こうした石造遺跡の劣化の要因として、北海道では冬季の寒冷条件が考えられる。そこで、遺跡周辺の環境条件特に冬季の温度変化を掌握し、次に岩石が凍結によって破砕される機構や過程についての現地観測に基づく推定・考察を行った。小樽市手宮洞窟の内外に温度センサーを設置し、ほぼ二年間の温度計測を実施した。その結果、外壁ではかなりの回数での凍結-融解の繰り返しが発生していることが分かった。どの程度の温度変動に対して凍結破砕が発生するかについて、実験を行ったところ、日変動が-5℃〜+5℃K範囲を越えると破砕が有効に発生することが分かった。そこで全国的なこうした凍結-融解の発生頻度分布をAMEDASデータに基づいて推定した。北海道では最大で20回程度、小樽では6回程度出現するとが判明した。遺跡の長期保存法としては、環境制御によってこうした凍結-融解が発生しないような、人工的環境を実現するのが有効である。 直接的に劣化した岩石に対して、合成樹脂を塗布し、凍結抵抗性を増加させるための基礎実験を併せて行った。エポキシ樹脂、アクリル樹脂シリコン樹脂の3種について、その有効性の試験を行った。その結果シリコン樹脂(SS-101)が最も有効であることが判明した。凍結抵抗性が発生するメカニズムとしては、単に劣化した岩石の強度を補強することによるのではなく、むしろSS-101の持つ撥水性によることが分かった。 北海道との対比で、中国敦煌莫高窟の遺跡の保存状態について、比較研究を行った。乾燥した条件が石造遺跡の保存に有利に働いていることが確認された。
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