研究概要 |
平成5年度は,Nakajima(1988)が予察的研究で実施した約2.5万年前の姶良Tn火山灰の試料採取およびその残留磁化測定を重点的に行った。全国の31地点で採取した姶良Tn火山灰試料の測定結果から試験的に作成した磁気図を今秋の地球電磁気・地球惑星圏学会で発表した(中島・藤井,1993)。第1近似として,全測定結果の平均値から求めたVGP(仮想磁極)を当時の磁極の位置として作成した磁気図からは,約2.5万年前の日本列島における地磁気偏角は全体として東偏(北海道で15°E,九州で10°E)していることが分かる。この第1近似で求めた磁気図と,各地点での測定結果を比較すると,岡山県のデータが数度西偏しているのが目立つ。このずれは,非双極子成分による局地異常を示している可能性が高い。このような研究結果から,姶良Tn火山灰で磁気図を作成することにより,地磁気永年変化を考える上で重要な要素となる局地異常について議論できることが明らかになった。 約4.5万年前の大山倉吉軽石(DKP)については,福井県,石川県,鳥取県の8地点についての試料採取・測定が終わっているが,まだ磁気図を作成できる段階ではない。福井県織田町の2地点でATとDKPが挟まれる露頭が見つかった。この2つの地点では火山灰層だけではなく,それらの上下のシルト層や砂層からも試料を連続して採取し測定を行った。その結果,DKP層準付近で地磁気のエクスカーションを示唆する結果が得られた。5万年前頃のエクスカーションは琵琶湖底堆積物(Nakajima & Kawai,1973)や信州ローム(Hirooka et al.,1978)でも報告されている。DKP層準付近のエクスカーションが本物なら,古地磁気による年代推定にとっては非常に重要な指標を得たことになる。平成6年度中には結論をだしたい。
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