アミノ酸ラセミ化年代測定法は、放射性炭素法やカリウム-アルゴン法の測定領域外である千年以下や5万年から数十万年の年代範囲をカバーできるユニークな方法として知られている。測定に必要な化石の試料量が一回に約1gで事足りるのも大きな長所の一つである。しかしながら、この方法は前処理に非常に長い時間を要するのが欠点の一つである。本研究では、より迅速な測定を行うために、実験方法を次のように改善した。まず化石を必要最小量の希塩酸に溶かす。次に、溶かした溶液の約5倍量のエタノールを加え、-20℃に約1時間冷却するとタンパク質の白い沈殿を生じる。遠心分離してこの沈殿のみを集めることにより、無機塩や遊離アミノ酸そして低分子量ペプチド、その他有機不純物のほとんどを同時に除去できた。タンパク質の白沈は、塩酸加水分解して遊離アミノ酸に変える。塩酸を蒸発除去させた後は、遊離アミノ酸をN-イソプロピルオキシカルボニルメチルエステルへと1分間以内で誘導体化する。シクロデキストリン誘導体を光学活性固定相としたキャピラリーガスクロマトグラフィーでアスパラギン酸を光学分割し、そのD/L比を求めた。今回の研究の成果としては、 1)脱塩のためのイオン交換精製が省略でき、また誘導体化が迅速になったために処理時間が1/2以下にまで短縮された。 2)化石中タンパク質の分画において、エタノール沈殿法を採用したのでタンパク質の回収率が増大した。これにより、1回の測定に必要な化石試料の量を100mgにまで減らすことができ、貴重な化石試料を少しでも多く保存するのに有用であった。 3)化石中アスパラギン酸のD/L比の測定精度を相対標準偏差(%)で3%以下にまで抑えることができた。
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