本研究の目的は、縄文時代の調理用土器から、残留有機物を抽出、分離し、化学的に分析し縄文時代の食生活を推測することにある。この研究は特に、土器の中に序々に浸透し、土器を構成する多孔性の無機マトリックス内に閉じ込められている脂質類に焦点を当てる。土器表面に吸着した脂質は長い年月を経て空気や土壌を構成する化学物質、酸性度や微生物等によって序々に分解されるが、マトリックスの中に閉じ込められた脂質は、その分解を免れている可能性がある。よって、縄文時代の化学組成そのままを検出できる事が期待される。マトリックスの中の脂質は、土器を有機溶媒で抽出することによって、回収することができる。 平成5年度は、まず、土器一脂肪質のモデル系を作製し基礎的な検知を得た。土器モデルとして、国際基督教大学構内から出土した3種類の粘土を板状に加工し、電気炉で5時間、3つの異なった温度で焼いた板を1cm^3に切断し使用した。 ガスクロマトグラフィーで脂質を分離同定するために、まず脂質をメチルエステル化する必要がある。そこで脂肪酸及び脂肪酸エステル(トリグリセロール)を選択的かつ定量的にメチルエステル化する簡便な改良方法をみいだした。既知の脂肪酸及び脂肪酸エステルを土器モデルに付着させたモデル系の回収実験から、回収条件は、土器を立方体のまま10%ジクロルメタン/メタノール溶液に浸し超音波で抽出する方法が最適であることが解かった。回収率は1.脂肪酸>脂肪酸エステル、2.短鎖>長鎖、3.不飽和>飽和、4.粒子の細かい粘土>粗い粘土、となり、脂質の種類や土器によって差が有る事が解かった。 また、土壌の影響等を検討するため、既知の脂質を土器モデルに吸着させたものを土壌中に埋めた。
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