昨年度、我々は土器に吸着された脂質の回収率が、炭素鎖の長さによって変わる事をモデル化合物を用いて確認した。そこで、今年度は植物由来の脂質が土器に吸着された時、回収された脂質の分析から、はたして元の脂質が認識できるかをどうかを調べる為の基礎実験を行なった。 最初に、食用とされる種子13種類(カシ、コナラ、クヌギ、ツバキ、クリ、ギンナン、ヒシ、カヤ、ピカン、チャ、オニグルミ、シイ、トチ)を採取した。次に、カシ、クヌギ、ツバキ、クリ、ギンナン、オニグルミ、シイ、の8種類から1)圧搾法、2)ヘキサンによる溶媒抽出法、または、3)クロロホルム/メタノール混合溶媒による抽出法を用いて脂質を抽出した。 脂質はメチルエステル化した後、ガスクロ・質量分析法(GC-MS)を用いて分析した。抽出した脂質は、脂肪酸、トリグリセリド、コレステロール等を含むので、1)直接メチルエステルする、2)化薄層クロマトグラフィー(TLC)で脂肪酸とトリグリセリドを分離し、各々をメチルエステル化する方法のいずれがより多くの情報を得ることができるかを検討した。2)の方法は、実験時間がかかるが、得られるマススペクトラムがより単純で、ピークの重なりも少ない為、より正確なデータが得られる事が分かった。また、脂肪酸とトリグリセリドは、含まれている脂質の種類には変わりがないが、含まれている脂質の割合が異なっている事が分かった。 オニグルミの脂質をモデル土器に吸着させた後、有機溶媒で抽出し、TLCで脂肪酸とトリグリセリドに分けて分析すると、脂肪酸は回収後、炭素鎖の短い化合物の割合が減り、トリグリセリドは逆に炭素鎖の短い化合物の割合が増える結果となった。これは、昨年度の脂肪酸、トリグリセリド共に炭素鎖の短い化合物の割合が増える、というモデル化合物を用いた結果とは一致しない。この実験は再度繰り返し、データの信頼性を高める必要がある。
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