平成7年度は、29面のほう製鏡の試料を入手し鉛同位体比を測定した。その内訳は、弥生式小形ほう製鏡2面、「ほう製」三角縁神獣鏡14面、その他の古墳時代ほう製鏡13面であった。弥生式小形ほう製鏡の結果は、従来のデータから予想された通り"前漢鏡タイプ"の鉛であり、研究目的とは直接の関係はないので、ここでは論じない。 「ほう製」三角縁神獣鏡14面を^<208>Pb/^<206>Pb vs. ^<207>Pb/^<206>Pbの図にプロットし、昨年度測定した京都府椿井大塚山古墳出土の「舶載」三角縁神獣鏡28面と比較すると、僅かではあるが明らかに異なる位置にグル-ピングすることが確かめられた。三角縁神獣鏡論争の争点の一つは、「舶載」三角縁神獣鏡も実はほう製ではないかという議論なので、三角縁神獣鏡の「舶載」と「ほう製」に材料面で何らかの差異があるという事実は重要である。 その他の古墳時代ほう製鏡13面は、舶載の神獣鏡・画像鏡など古墳から出土する中国鏡が分布する領域Bに満遍なく分散している。このような分布状況は過去に測定した古墳時代ほう製鏡でも見られたことで、本実験で再び確認された。これをまとめると、ほう製鏡の製作には日本列島に持込まれたいろいろな材料を利用したように見受けられる。これは一定の原料供給元が確保されていなかったためと考えるのが素直な解釈であると考える。
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