元興寺文化財研究所から提供された出土木材から試料を作成した。木材組織の顕微鏡観察から、出土木材は広葉樹の一種であるシラカシと同定できた。この出土木材から約25mm角の立方体試料を作成した。実験に用いた臨界点乾燥器は、日立製作所製HCP-2形である。 炭酸ガスの超臨界流体を用いる臨界点乾燥では、まず試料内の水をエタノールで、次いで酢酸イソアミルで置換する必要がある。本年度は、次の5種類の実験を行った: (1)まず、上述の前処理した試料を超臨界流体に1時間浸した後、減圧し、回収した。 (2)超臨界流体への浸漬操作を連続して2回繰り返した後、回収した。 (3)浸漬操作を3回繰り返した後、回収した。 (4)試料をエタノールで置換した後、そのまま超臨界流体に1時間浸し、減圧して回収した。 (5)前処理を全く行わず、水を含んだままの試料を超臨界流体に1時間浸し、減圧して回収した。 試料内の残留溶媒(酢酸イソアミルなど)の脱離速度を測定するため、回収後、恒温箱の中で試料の重量変化を連続的に測定した。また、変形に関するデータを得るため、乾燥前後の直方体の各辺長を測定した。その結果、エタノールと酢酸イソアミルで前処理した試料は、超臨界乾燥した後にもほとんど収縮・変形を起こさないことが分かった。実験(2)、(3)の結果から、浸漬回数は収縮・変形にはほとんど影響しないことが分かった。前処理を全くしなかった実験(5)の試料の収縮・変形は自然乾燥の結果とほとんど同じで、臨界点乾燥の効果はなかった。エタノールのみで処理した実験(4)の試料は、変形に関しては自然乾燥と超臨界乾燥の場合の中間の変形度を示した。以上の結果は第11回日本文化財科学会にて発表予定である(申込済み)。
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