本研究は、超臨界乾燥法の保存処理への応用に関する研究と、現在の代表的な保存処理法であるポリエチレングリコール(PEG)含浸法に対する化学工学的研究の二テーマから成っている。 PEG含浸法:著者らは、既に拡散モデルに準拠してPEG含浸法の解析を行ない、処理時間の推算が可能なことを示している。本研究では、さらに詳細に検討し、種々の因子(樹種、劣化度、木目、含浸条件など)の有効拡散係数に及ぼす影響を明らかにした。また、PEG含浸処理した出土木材の収縮・変形について検討し、PEGの重量百分率が74%以上であれば、体積収縮率は5%以下になる事を見い出した。 超臨界乾燥法:超臨界流体には二酸化炭素を用いた。二酸化炭素と水は相互溶解度が小さいので、前処理(試料内の水をエタノールで置換し、次いでエタノールを酢酸イソアミルで置換する)が必要である。本研究では、前処理における薬液(エタノール、酢酸イソアミル、超臨界流体)の含浸速度と所要含浸時間の推算、並びに超臨界乾燥による収縮率について検討した。薬液の含浸速度は拡散モデルに準拠して解析できたので、有効拡散係数を求めた。エタノールの有効拡散係数は分子拡散係数の約44%であった。酢酸イソアミルの有効拡散係数はエタノールのそれと同程度と見なせ、温度25℃における有効拡散係数は両者とも樹種に無関係に0.3cm_2/dayであることが分かった。超臨界流体中の酢酸イソアミルの有効拡散係数は、エタノール含浸系の場合と同様に分子拡散係数の推算値11.5cm_2/dayの44%と考えて、5.06cm_2/dayとした。上述の結果を用いてPEG含浸法と超臨界乾燥法の所要時間を比較したところ、超臨界乾燥法によると、処理時間はPEG含浸法の約1/4に短縮できることが分かった。超臨界乾燥後の収縮率は、絶乾状態でも体積収縮率で20%(等方性を仮定すると辺長の収縮率は7%)以下であった。
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