本年度は1)静岡市・川合遺跡から出土した杉の柱および礎板の固体識別、2)炭化米のDNA分析の可能性の2点を中心に研究した。 1)川合遺跡では古墳時代後期ころの住居あとにともなう多量の柱および礎板が出土したが、これらが同一の材に由来するかどうかは当時の森林に生えていた木の平均的な大きさを推定するのに重要な資料となる。材の同一性の判定はDNAフインガープリント法によった。最初に相同性検定のためのプライマー(DNA断片を増幅するときに使われる増幅開始点を決める目印)探しを行った。約50種のランダムプライマーの中から、適当と思われる5点を抽出し、これらで増幅されるDNA断片の組み合わせを元に個体の相同性を推定した。分析の結果、これらの柱および礎板が数個体の杉よりとられたことが推定された。なおこの数個体の杉のうち、3個体からは多量の柱および礎板が作られているが残りの個体からはわずかな量の礎板が作られているにすぎなかった。こうした分析は今後、材木の利用や再利用の方法を推定するのに有効と思われる。 2)佐賀県唐津市・菜畑遺跡出土の炭化米からDNAの抽出を試みた。3粒の種子を混ぜたサンプルから微量のDNAが抽出できた。また現存の稲品種の種子からとられたDNAのサンプルと比較することによりそれらがジャポニカのものであることが判明した。この技術を応用して他の遺跡から出土した炭化米についてDNA抽出を試みたところ、約半数のサンプルからDNAが抽出された。それらはいずれもジャポニカのものと推定された。今後はそれがどういう種類のジャポニカであるのか、ひとつの田の中での多様性はどれくらいか、などの点を中心に検討を加えたい。
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