スケーリング則を持つ高次元アトラクターにおける統計性質を数値的に調べた。対象とする常微分方程式系として、流体乱流を念頭において我々が提案したシェルモデルを採用した。このモデルは低次元(数十)のモデル方程式系であるが、カオス状態において流体乱流のKolmogorovのスケーリング則を満たすことが確認されている。ストレンジアトラクターのリヤブノフ次元が50程度のとき、速度変数の分布関数は、慣性小領域において高波数領域になるにつれ次第にガウス型からはずれ尖り度は3より大きくなる。さらにエネルギー散逸領域に入ると分布関数は指数型からベキ型に変化し次第にP(x)〜|x|^<-1.6>に漸近することを見い出した。このモデルの結果を流体乱流における分布関数と直接に比較するためNavier-Stokes方程式の数値シミュレーションを行なった。シェルモデルの結果は変数の時系列に関するものであるが、これを流体乱流の一時刻の速度場データと比較するため、速度場を直交ウェーブレットで展開し展開係数の規格化した分布関数を作成した。この手続きは、フーリエ成分の空間分布をスペクトル形が急峻な散逸領域において調べるためのものである。その結果、数値シミュレーションにおいても深い散逸領域において分布関数形がシェルモデルと同じベキ型に近づくことを見出した。これは分布関数形が、少なくとも第一近似において、系の基本的性質のみで決定されていることを示唆している。また直交ウェーブレット展開によってフーリエ成分の空間分布を調べる方法の試行例として、大気乱流の観測データに適用しその解析も行なった。
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