ソリトンは非線形分散媒質中に特有な波動である。しかし、多くの媒質は非線形性と分散性だけではなく、他の性質を持ち合わせる場合がしばしばある。たとえば、散逸はほとんどすべての媒質に普遍的に現れる性質である。この散逸の結果、ソリトンは時間内、空間的に減衰する。離散的な非線形分散系では散逸によるソリトンの減衰を交流駆動の方法により打ち消すことができることをB.A.Malomedが理論的に示した。その理論は直ち非線形電気回路に応用され、T.Kuuselaによって交流駆動の有効性が実験的に検証された。本研究では、非線形電気回路に交流駆動の方法を適用し、(1)クノイダル波を安定に回路中を伝播させる実験、および、(2)ソリトンをリング状の回路に永久に閉じこめるソリトン・ストレイジリングを作製する実験を行った。 クノイダル波 実験では、まず、散逸の少ない電気回路でクノイダル波の分散式を測定し、戸田格子の理論と比較した。クノイダル波を指定する楕円関数の母数を波の周波数と振幅から実験的に見出だす方法を開発し、実験で求めた分散式が理論と極めて良く一致することを確認した。次に、散逸の多い電気回路で交流駆動の実験を行い、波の速度で決まる共鳴条件と波長の量子化条件を同時に満足するとき、交流駆動によりクノイダル波にエネルギーが供給されて散逸と釣り合い安定な伝播が可能になることを示した。 ソリトン・ストレイジリング 散逸を含むリング状電気回路の一点からパルスを加え両方向に伝播させると同時に、回路に交流駆動を印加し散逸を補う。パルスと交流駆動の位相を調節することにより一方方向に進む波にのみ共鳴する条件を作るとソリトン・ストレイジリングが実現できることを確かめた。位相の調整により伝播方向は制御可能である。これにより、ソリトン閉じこめを利用したソリトンダイナミックメモリーの実現が可能になった。 なお、これら二つの研究成果は現在投稿準備中である。
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