化学エネルギーから、直接、機械的なエネルギーを取り出すために、我々は界面張力の周期的な非線形振動現象に着目し、以下に示すような成果を得た。 (1)油水界面の自発的な運動 界面活性剤の、水相と油相間での濃度勾配によって生じる界面の巨視的な運動の場にキラル非対称性を導入することによって、制御された回転運動を取り出すことが可能であることを我々はすでに示した。この運動の起こるメカニズムとして、急激な界面張力の増加に伴う接触角反転によって水・油・器壁界面で張力不均衡が起こることが原因であることを実験的に明らかにした。さらに理論的な考察の結果、この回転運動の加速度は実験値とほぼ一致することが確かめられた。 (2)BZ反応における界面張力振動 フェロイン触媒を用いたバッチ系でのBZ反応において、酸化還元電位の振動に同期して気水界面の張力が周期的に振動することを我々はすでに見いだしている。界面化学的測定の結果、この張力振動は周期的な酸化還元反応で生成するFe(II)/Fe(III)の表面張力の相違により起こることを明らかにした。また、水より比重の軽い有機溶媒を加えて二相系にした油水界面について同様な実験を行ったところ、気水系より張力の振幅が50%も増大することを見いだした。この結果は空気を遮断しても張力が振動することを示しており、酸素が流体力学的不安定性を引き起こすという従来からの仮説を否定する実験結果を得た。 これらの研究によって、ミクロなスケールである分子の協同的な効果により、化学エネルギーから巨視的な機械的エネルギーを直接取り出すことが可能であることが示された。
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