本申請者らは既に非線形特性を活用することにより化学エネルギーから直接巨視的なベクトル性(油水界面の巨視的運動や三相交流電力)を取り出すことが可能であることを既に見つけていたが、今回の研究でさらに次のような成果を得た。 1.濃度勾配による化学ポテンシャルを利用したマクロな運動 油水二相系において界面活性剤存在下で溶質濃度を非平衡にして、境界条件(実験系のミクロなキラリティ)の対称性を利用すると、直径10cm程度のシャーレ内でコントロールされた一方向(右回りと左回り)の回転運動が起こる。これは、分子レベル、Åのオーダーの世界に源のある力が、10^7〜10^8ものスケールの違いを乗り越えてcmのオーダーの方向の揃った力を発生しているという興味深い現象であるが、本研究においてこの現象のメカニズムの解明に成功した。またこの系のエネルギー変換効率を計算することにより、40〜60%という非常に高い効率であることが明らかになった。 2.化学反応による界面での周期的な張力発生とマクロな運動 マロン酸などの基質を触媒存在下、臭素酸酸化させると、酸化還元電位が周期的に振動する(ベロ-ゾフ・ジャボチンスキー反応:BZ反応)。昨年度はこの系において、さらに表面張力が周期的に振動することを発見した。本年度は、この現象が界面活性を有する触媒を用いたときのみ起こることを見いだした。つまり表面張力の振動は界面活性を有する反応触媒の価数の変化によって引き起こされることを明らかにした。さらに、表面を気水界面から油水界面に変えることによって表面張力振動の振幅が増大することを発見した。
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