前年度に引続き、大域結合をもつ複素Ginzburg-Landau振動子集団の集団挙動を詳細に解析した。その結果、集団的カオス状態は種々の観点から次の3つのタイプ(タイプI、タイプIIa、タイプIIb)に分類することが最も自然であることが判明した。これらは(1)状態空間における振動子の分布のパターン、(2)リヤプノフスペクトルの特性、(3)局所リヤプノフ指数の符号、という3つの特徴付のいずれからも明確に区別される。すなわち、振動子分布はタイプIにおいては少数の点クラスターであり、タイプIIa、bにおいては連続分布である。また、全系のリヤプノフスペクトルについては、タイプIおよびIIaカオスはともに1ないし数個の正の指数を持つが、タイプIIはオーダーNの正指数をもつ。また、タイプIおよびタイプIIbがただ1個の0リヤプノフ指数をもつのに対して、タイプIIaはオーダーNの0指数をもつ。さらに、平均場の中での個別振動子に対して定義された局所リヤプノフ指数の符号は、タイプI、IIa、IIbに対してそれぞれ負、0、正である。また、それぞれのタイプの集団カオスに対する物理的描像を提出した。タイプIにおいては、系の有効自由度が少数次元に縮約され、低次元カオスと本質的に同一である。タイプIIaは、少数個の正のリヤプノフ指数を持つという点で低次元カオスと類似するが、オーダーNの0リヤプノフ指数を持つ点で、アトラクターの次元の定義に照らせば高次元であり、高次元トーラスに類似した側面をもつ。これらオーダーNの中立的方向が一斉に不安的化したものがタイプIIbカオスであり、これは真の高次元カオスである。しかし、このような高次元カオスにもマクロな秩序運動が見られ、それを捉えるための方法が模索された。 以上の成果はPhysica Dにおける2編の論文として公表され、また「力学系とカオスに関する国際会議」(1994年5月、東京都立大学)において発表された。
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