本研究の目的は、増殖し、修復しうる自己組織システムをセル・オートマトンによって表現し、自己組織と自己崩壊の過程がどのように関連し合っているかを計算機実験によって調べることである。 そこで、生物システムの発生過程を、自己増殖セル・オートマトンによって表現する。各セルには、同一な遺伝子のセットを仮定する。セルの分化状態は、遺伝子セットの活性化状態のパターンによって表現することができる。おのおのの遺伝子は、お互いに複雑なネットワークを介して相互作用をしているので、ここではすべての遺伝子がランダムに相互作用していると仮定する。初期条件としては、1つのセルを選ぶ。あらかじめ、決められた遺伝子の活性化状態になると、1つのセルが分裂をおこし、2つの同一なセルを生成するとする。遺伝子は、ランダムに突然変異を起こしているとする。また、その結果、ある決められた変異パターンになると、セルが死ぬか、もしくは自己修復をしてセルの死を免れるとする。(ここでは、セルレベルの時間スケールと、セル集団レベルの時間スケールが異なっている。)しかし、この自己修復率は、必ずしも完壁ではなく、そのために自己修復の結果かえって、突然変異率が上昇する場合も考えられる。こうして、変異した遺伝子を持ったセルが、まわりのセルとの協調性を失ってしまうと、がん化した状態に発展する。こうして、セルレベルの死の回避が、組織レベルの崩壊を引き起こすことが明らかになった。 つまり、自己組織過程と自己崩壊過程は、時間と空間の多重性のために因果律として結ばれることになるのである。このような視点は、がんはもとより、老化、死といった現代生命科学が抱える大問題に対し、新たな展開を促すことと期待される。
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