1.偏心二円筒のゆっくりとした速さでの交互の周期的回転に伴う二円筒間の流体の運動を調べた。具体的にはストークス近似の下で非定常な速度場を計算し、それに伴う流体粒子(流体の微小部分)の運動を数値的に求めた。そして、その運動から得られる内外円筒回転の一周期ごとのポアンカレ断面を、カオスに関連した力学系の理論を用いて解析し、二円筒の回転方向が逆方向で半径比が0.3の場合について次のことがわかった。 (1)二円筒間の領域は、流体粒子の一周期ごとの位置が一つの閉曲線上を規則的に動く規則領域と、その位置が複雑かつ不規則に動き回るカオス領域にわけられる。(2)偏心率が小さい場合でもポアンカレ写像の不安定平衛点が必ず存在し、カオス領域がそのまわりにみられる。(3)偏心率の変化に伴うカオス領域の面積変化の挙動は一周期あたりの外円筒の回転量に大きく依存し、内円筒の回転量には弱くしか依存しない。(4)ポアンカレ写像の主要な楕円形平衛点は通常最も大きな規則領域の中心にあるが、ある範囲の内外円筒の回転量に対しては、偏心率の増大に伴ってこの平衛点が双曲型に分岐し、このことは最も大きな規則領域の分裂に伴うカオス領域の増大をもたらす。 2.上記の規則領域とカオス領域での流体粒子の運動の定性的な差異をみるために、何周期か内外円筒を回転させたあと時間反転に対応する回転を同じ周期だけ行なって流体粒子(色素)の戻り具合をみる実験を行ない、次のことがわかった。規則領域から出発した流体粒子はほぼもとの位置に戻ってくるのに対して、カオス領域から出発した流体粒子は回転量のわずかな変動を敏感に感じて戻りが悪い。これはカオス的運動での軌道不安定性を反映していると思われる。
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