研究概要 |
これまでメチル化アルギニン類は生体内のメチル化タンパク質の代謝回転に伴って遊離され、生体内に広く分布しているにもかかわらず、その生理的役割については明らかにされていなかった。最近、N^G-モノメチルアルギニン(MMA)およびN^G,N^G-ジメチルアルギニン(DMA)が一酸化窒素(NO)産生系の強力な阻害剤として認識されるようになったことから、これらを特異的に分解するN^G,N^G-ジメチルアルギニンジメチルアミノヒドロラーゼ(DDAH)の存在がクローズアップされ、本酵素がMMAおよびDMAの分解、代謝を介してNO産生系の内因的調節機構の要として働くことが示唆されるようになった。 本研究において、著者らはラット体内における本酵素の分布を詳細に検討することを計画し、その手段としてモノクローナル抗体による免疫学的手法を用いることとした。そのために、まずモノクローナル抗体の作製を試み、有効な4種のモノクローナル抗体を得ることができた。その中で、最も本酵素に親和性の高いAl抗体を用いイムノブロッド法によりラット各種臓器ならびにNO産生細胞系である好中球やマクロファージにおけるDDAHの存在について検討した結果、本酵素はラット体内に広く分布し、NO産生臓器として知られる脳や血管においては比較的高濃度に存在することが明らかになった。また、好中球やマクロファージにおいてもその存在が確認された。ここで得られた成果は、DDAHが内因性MMAおよびDMAを分解し、これらアミノ酸の組織内濃度を下げることによってNO産生を調節しているという仮説を支持する一つの根拠を提供するものである。 尚、ごく最近、ヒト血管内皮培養細胞においてもDDAH様酵素の存在が報告されている。今後は研究対象をヒト血管内皮培養細胞に移し、DDAHの遺伝子発現系の検討ならびにその調節因子の検討を進め、ヒト血管系におけるメチル化アルギニン代謝系とNO産生系との接点を解明したいと考えている。
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