記憶検索において一般的には老人の方が成人より処理が遅いと言われているが、Mental Arithmetic(暗算)を行う際の加齢の影響はあまり報告されていない。そこで、加齢により四則演算の暗算の処理にどのような違いがみられるかを検討することを目的として平成4年度に予備実験を行った。その結果、老人でも実験可能なことが確認された。そして、平成5年度科学研究費補助金の給付によって、平成5年度に本実験を行った。被験者は成人群として大学生および大学院生30名を用いた。老人群は経費A老人ホーム居住者30名を用いた。刺激は加減乗除の4種類の計算式を用い、1から9の整数の組み合わせでそれぞれ23組づつ、合計92組であった。計算式の刺激を1組づつコンピュータによって提示した。被験者の課題は計算式の答えをできる限り速く正確に口頭で報告することであった。刺激呈示直後から被験者の反応までを反応時間とし、DATに録音した。結果の整理方法は録音されたテープをソナグラフ(DSP Sona-Graph Model 5500)によって1試行づつ計測して反応時間を求めた。誤反応数はいずれの条件においても老人群の方が成人群より多い傾向がみられた。平均反応時間を加減乗除の条件ごとに求めた結果、いずれの条件においても老人群の方が反応時間が長い傾向がみられた。また、成人群ではいずれの条件においても大きな違いはみられなかったのに対して、老人群では乗算や除算の方が、加算や減算より反応時間が長い傾向がみられた。答えの値を関数として平均反応時間を条件ごとに求めた結果、いずれの条件においても老人群の方が反応時間が長い傾向がみられた。以上のことから、加齢によって記憶検索の処理が遅くなることが示唆された。
|