研究概要 |
高速電子衝撃で起こる非弾性散乱により生成する散乱電子と電離電子とを同時計測法で検出し散乱前の対象分子の各電子軌道毎の電子波動関数を運動量空間で直接的に測定する(e,2e)分光法は、一般的に断面積が〜10^<-21>cm^2と小さいため原子や単純分子への応用にとどまっている。マルチチャンネル化による(e,2e)分光法の感度・精度の向上を目的とする本研究の遂行のため、以下のことを実施した。 1.ナノ秒の時間応答を持つ二次元電子検出器の製作 McPを利用したマルチアノードではクロストークが本質的な問題となったので、管径3mmのセラトロン(株)ムラタと共同開発し、これを放射状に並べることでクロストークの完全に無い二次元電子検出器とした。性能評価の結果、利得〜10^6,時間分解能1ナノ秒,さらに正常な波高分布を持つことが確認された。 2.マルチチャンネルを処理可能な同時計測用超高速電子論理回路の設計・製作 本回路には、同時計測法に必要な時間差をナノ秒の時間分解能で伝える事と、さらにどの二つのチャンネルの信号なのかをコード化して伝える事が要求される。分子科学研究所装置開発室の協力によりCADシステムでECL論理の回路設計を行い、基盤を自作し実装した。本回路は14×14=196通りのペアの同時計測を可能とし、ビン電源に2モジュール幅で納まるコンパクトなものである。パルスジェネレータでテストを行ったところ周波数10^5でも正常に動作した。 以上2点により、(e,2e)分光法はマルチチャンネル化により二桁以上感度・精度を向上させることは十分可能であることが本研究により実証された。
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