本研究では、生体触媒の新しい利用法の開発のため、生化学の分野では殆ど取り扱われなかった有機ケイ素化合物の生体触媒による変換を試み、ケイ素が生体触媒に与える影響を検討し、さらに、生体触媒による変換を利用した新機能性物質創製の可能性を検討した。 まず、従来加水分解酵素を用いても光学分割することが困難とされている1級アルコールにケイ素を導入し、光学分割を試みた。1級の光学活性含ケイ素アルコールとして、2-トリメチルシリル-1-プロパノールを選び、各種加水分解酵素によるエナンチオ選択的エスチル化反応を行い対応する炭素型の1級アルコールとの比較を行ったところ、炭素型化合物は、よい基質ではあったが、エナンチオ選択性は低く、従来の方法では光学分割が困難であることが確認できた。しかし、ケイ素化合物の方は、よい基質となるだけではなく、反応のエナンチオ選択性もある程度得られ、特に、リパーゼサイケン100を用いれば、非常に効率よく1級含ケイ素アルコールを光学分割できることがわかった。これは、ケイ素が、炭素に比べ、大きな原子であることが、エナンチオ選択性の向上に貢献したものと考えられた。次に、ケイ素原子をキラル中心とする1級アルコールを選び、加水分解酵素によるエナンチオ選択的エステル化反応を検討した。その結果、市販のパパインがエチルメチルフェニルシリルメタノールを良い基質とするだけではなく高いエナンチオ選択性を示すことが分かり、エチルメチルフェニルシリルメタノールを良い基質とするだけでなく高いエナンチオ選択性を示すことが分かり、エチルメチルフェニルシリルメタノールの効率の良い光学分割にも成功した。今回、光学分割に成功したこれらの有機ケイ素化合物は、新しいキラルビルディングブロックとして有用と考えられるだけではなく、含ケイ素医薬(シラ医薬)の前駆体などへの応用が考えられ非常に興味深い化合物であると考え、さらに検討を進めている。
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