本研究では、筆者らが提案した反応熱によるプローブ光の偏向を利用する新規計測法を酵素反応系に応用し、酵素反応の新規非接触in-situ計測法を開発することを目的とした。研究実績として、次のような成果を挙げた。 まず、酵素反応熱によるプローブ光の偏向測定系及び測定方式を検討した。モデル酵素反応はカタラーゼによる過酸化水素の分解反応を選んだ。測定系は酵素反応セルとプローブ光検出系とに分けられる。測定方式については、まず酵素反応の水相反応場を四塩化炭素相の上に置き、プローブ光を四塩化炭素相に通過した。この場合、酵素反応熱によるプローブの偏向信号と酵素反応の生成物である酸素の四塩化炭素相への拡散溶解により生じた濃度勾配により生じた偏向信号とが同時に検出されることが分かった。次に、反応熱による偏向信号のみを測定するため、酵素反応の水相反応場と四塩化炭素相を薄い金箔で分離する測定方式を考案した。偏向信号の大きさは過酸化水素の濃度及び酵素活性とそれぞれ10^<-3>M-10^<-2>Mと11-550unit/mlの範囲内で直線関係を有する。 次に、カタラーゼを金箔上に固定し、本法を新規バイオセンサーとして利用する可能性についても検討した。測定はフローインジェクション方式で行い、りん酸ナトリウム緩衝液をペリスタポンプでセルに流し、そこへ過酸化水素溶液を注入した。反応信号の大きさは注入した過酸化水素の濃度と5x10^<-3>M-10^<-2>Mの範囲内で直線性を示した。金箔上に固定したカタラーゼを用いるフロー測定系は良好な安定性を示し、本法を新規バイオセンサーとして発展させられることを示した。 さらに、プローブ光の通過位置と偏向信号との関係を調べ、偏向信号と固定した酵素の活性分布との関係を検討した。また、偏向信号の時間変化から酵素反応速度の解析を行い、酵素活性と反応速度との関係について有益な知見を得た。
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