真核細胞であるSaccharomyces cerevisiaeと原核細胞であるEscherichia coilの双方で酢酸を炭素源とした場合に遺伝子の誘導発現を促す酵母Candida tropicalisのイソクエン酸リアーゼ(ICL)遺伝子の上流領域の機能解析を行った結果得られた知見を以下に示す。 1.Dideoxy法を用いてICL遺伝子の開始コドンより上流の領域1530bpの全塩基配列を決定した。 2.PCR法などを用いてICLプロモーターの様々な領域を欠失させたものを作製し、それぞれをS.cerevisiae、E.coli内に導入した。導入した各株をグルコースおよび酢酸を炭素源として培養し、ICL遺伝子の発現量を調べた。この結果、ICL遺伝子上流領域の中にS.cerevisiae内で機能するプロモーター(proA)とE.coli内で機能するプロモーター(proB)がそれぞれ独立して存在していることがわかった。それぞれのプロモーターの塩基配列を調べると、proAはS.cerevisiaeのグルコースレプレッションに関わりのあるMIG1タンパク質のDNA結合領域と高い相同性を示し、probはE.coli内のICL遺伝子aceBAKの調節にかかわりのあるlclRタンパク質のDNA結合部位と高い相同性を示した。今までに得られた結果はきわめて興味深く、今後、proA、proBに実際に結合するタンパク質を同定するなど、さらなる解析によりICL遺伝子の転写調節についてだけでなく、原核細胞から真核細胞への転写調節機構の進化についての知見が得られる可能性は高いと言える。
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