まず運動をシミュレートし得る培養法を開発した。通常のディッシュ底面に伸縮性のシリコン樹脂を流し込んで固化させ、この上に生体適合性の膜を敷く。このディッシュ全体をコラーゲン処理し、次に電極を設置して培地に直接電流を流すようにした。この様な培養器に高密度で骨格筋細胞を播種し、通常の培養で行われるようにウマ血清を加えた分化培地で培養を行った。文化に伴い、筋管を形成して自発的な収縮が見られるようになってから電気刺激を行った。持久的な運動をシミュレートするため、低周波数で長時間(6時間)の電気刺激を毎日行い、これを2週間続けた。この様にして培養した筋細胞は生体内の状態に似た組織を形成していると考えられ、運動性が高いものである。 この様に培養した筋細胞から細胞膜画分を調整し定法に従ってウェスタン解析を行った。抗GLUT-4抗体を用いて定量を行ったところ電気刺激を行わなかったコントロール群に比べ75.8%発現量が増大していた。生体において長期の持久的運動トレーニングを行うと骨格筋でGLUT-4発現量が増大することが既に報告されており、この培養系で運動トレーニングがシミュレートできることが確認できた。 ウェスタン解析は比較的大量の細胞を必要とするため、比較的少量の細胞でも解析可能なmRNAレベルでの解析を試みている。現在GLUT-4およびGLUT-1のcDNAを用いて、同様の処理を行った細胞での検討を行っている。また、筋収縮以外の影響として、運動時には血中でノルアドレナリン等カテコラミンの濃度が増大することが知られている。そこで培地中にノルアドレナリンを加え、48時間処理した後GLUT-4発現量の変化を検討したが、GLUT-1、GLUT-4mRNAとも大きな変動は観察されなかった。今後更に詳細な検討を加える予定である。
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