本研究の目的は、踵部からの圧情報が足圧中心の後方可動範囲の設定にどのような機能的役割を持つかを明らかにすることである。 実験は、踵部からの圧情報を減少させるために足底冷却装置で踵部を冷却した実験(実験1)と、圧情報を増加させるために踵部と接地面との間にショットガンボールを挿入した(実験2)とを行った。それぞれの実験において、最初にコントロールとして、踵部に刺激を与えない状態での足圧中心を最も後方で保持できる位置(後方限界位置)を測定し、次に踵部に刺激を与えたときの後方限界位置を測定した。被験者は、実験1が7名、実験2が11名の合計18名の健常男子生徒であった。足圧中心をゆっくりとした一定の速度で後方へ移動させるために、等速(0.5cm/sec)で移動する視標に対する足圧中心によるトラッキング法を用いた。実験1における踵部の冷却は、1℃で40分間行った。また実験2では、ショットガンボールを5mm間隔に並べたものを用いた。分析は、実験1と実験2から得られた後方限界位置と、前脛骨筋から導出した筋電図とについて行った。 実験1の結果-冷却前の後方限界位置は踵から足長の平均17.8%で、冷却時は15.7%であり、冷却時は後方限界位置が有意に後方に位置した。足圧中心の後方移動に伴う前脛骨筋の活動開始位置および活動量は、冷却の有無によらず足圧中心の位置に一致した活動が見られた。実験2の結果-圧刺激前の後方限界位置は20.6%で、圧刺激時は20.2%であり、有意な違いは認められなかった。足圧中心の後方移動に伴う前脛骨筋の活動開始位置および活動量は、冷却時と同じく圧刺激の有無による違いは認められなかった。 以上のことから後方限界位置は、転倒に至らず余裕をもって姿勢調節をなし得るように設定されていることが示唆された。そして、この位置の設定には踵部からの圧情報が強く関係することが判明し、この情報を減少させたときにその機能的役割が明確になった。
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