(目的)以前より卵巣癌では17染色体のヘテロ接合性の消失(LOH)が報告されており、同部位または近傍に卵巣癌の発生、進展に関与するがん抑制遺伝子の存在が示唆されている。一方、17p13.1にはがん抑制遺伝子p53が同定されているが、卵巣癌の17染色体LOHとp53の不活化との関係は明らかにされていない。本研究では、17染色体のLOHとp53の不活化を同一症例上で検討し、卵巣癌におけるp53の不活化の意義および17染色体上にp53とは異なるがん抑制遺伝子が存在する可能性について考察した。 (対象と方法)30例の上皮性卵巣癌を対象とした。同一症例の腫瘍組織と正常組織よりDNAを抽出し、pYNZ22およびpTHH59のVNTRプローブを用いてLOHを検討した。p53の不活化についてはSouthern法および第4exon内のpolymorphismを利用したPCR-RFLP法によりLOHを、PCR-SSCP法により第4〜9exon内の突然変異をそれぞれ検討した。 (結果)(1)17p13.3(pYNZ22)のLOHはinformativeな症例25例中9例(36%)と高頻度であったが、17q23-25(pTHH59)においては7例中1例とその頻度は低かった。(2)p53の不活化は、LOHが18例中6例(33%)、突然変異が30例中7例(23%)であった。突然変異をもち、かつ残存するalleleがinformativeなものは3例でこのうち2例でLOHが認められた。(3)17p13.3のLOHとp53のLOHの間には、有意な相関(p<0.05)が認められた。 (結論)(1)卵巣癌の発生、進展にはp53の不活化の関与する例のあることが判明した。またその不活化の様式は1つのalleleの決失と残存するalleleの突然変異であることが明らかになった。(2)卵巣癌で高頻度に見られる17p13.3のLOHの背景にはp53とは異なるがん抑制遺伝子の存在より、むしろp53のLOHが存在することが示唆された。
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