pi反応面において反応試薬の攻撃する方向が複数あっても、立体障害ではなく軌道変形効果によって攻撃方向が偏ることがある。遠い位置の置換基がsp^2炭素中心へ影響を及ぼすであろうと予想される化合物としてケトン、オレフィンをもつスピロ環の縮合したフルオレンをデザインしその合成を確立した。(1)スピロケトン化合物におけるフルオレン環のpi軌道によるスピロ環上のケトンの空軌道(LUMO等)の変化と求核試薬(ハイドライド還元)との反応への反映。(2)スピロオレフィン化合物におけるフルオレン環のpi軌道によるスピロ環上のオレフィンの被占軌道(HOMO等)の変化と求電子試薬(過酸、酸化オスミウム)との反応への反映を明らかにした。すなわち置換基がニトロ基、メトキシ基、フルオロ基いずれにおいても反応は置換基と同じ方向から有利に起きた。つまり置換基による電子密度変化とは無関係である。これらの結果はpi反応面選択において立体障害を与えない位置にある置換基によってもpi面に偏りを生じることを明らかにした。sp^2炭素中心(二重結合炭素、ケトン炭素)のpi軌道は本来面対称を持っているが、立体的な影響を与えない離れた位置にある置換基によって生じた非対称な軌道と相互作用することによって、その対称なpi軌道ローブの広がりが歪みpi軌道への付加の方向に偏りが起きうると一般化できる。このような一般側をさらにより確かなルールにするため、異なる共役系をもつ化合物のデザインが必要である。
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