潜伏感染したヒト免疫不全ウイルスI型HIV-1を活性化する細胞性因子の同定及び解析を目指して本研究を始めた。HIV-1の転写はウイルス自身にコードされているタンパク質Tatがウイルス転写産物の上流にあるTAR(trans-acting responsive)領域に結合することにより活性化されると報告されている。申請者は、このTatと同様な働きをする細胞性因子の存在をCAT assayにより、様々な細胞株について検討した結果、マウステラトカルシノーマ幹細胞株とヒトT細胞株Jurkatにその可能性を見い出した。そこで、TatのTAR領域への結合能に注目して、発現ベクターlambdagt11に組み込まれたcDNA libraries からTAR-RNAに結合能を持つ細胞性因子を検索する方法が研究開発してきた。その結果、現在までに、マウステラトカルシノーマ幹細胞株OTF9-63 cDNA libraryから1クローン、ヒトT細胞株Jurkat cDNA libraryから4クローンがそれぞれTAR-RNAに結合するタンパク質をコードするcDNAクローンとして分離できた。これら五つのクローンのうちFTR1については、Jurkat細胞に導入し、CAT assayを行った結果、FTR1単独では、HIV-1の転写には影響を与えないが、TatによるHIV-1の転写活性化を抑制することが判明した。これは、申請者が開発した方法がHIV-1転写活性を制御する細胞性因子を同定するのに有効な手段であることを確認するものであるとともに、TAR領域に結合能のある細胞性因子の中にはTatとは異なりHIV-1の転写を抑制する働きがあるものが存在することを示唆し、そのような遺伝子を利用すれば、ヒト本来が持つHIV-1に対する抵抗性を高めることができるという可能性を提示した。
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