香川県における伝統的な鮮魚行商業である「いただきさん」は、近隣地区での日帰りの小規模な行商活動を行っている。行商活動に関する先行研究の対象は、数日から数カ月にわたる大規模な遠隔的行商活動が中心であり、高松市街地を独特の自転車で行商しているような小規模な近在的行商については、ほとんどその実態が明らかにされていなかった。 本研究によれば、行商者は高松市旧市街地に集中して約200名おり、人口1万人あたりの行商者数は、都心部である四番丁地区を頂点として周辺地区へ減少していく同心円状の分布となっている。これは、鮮魚行商人の大半を占める人数の「いただきさん」が西浜地区に集中しているためで、この地区から放射状に販売圏を拡大してきたものと考えられる。しかも、鮮魚小売店数と行商者数との間に正の相関が認められ、旧市街地においては極めて厳しい競合状態にある。 現在、魚介類行商者の93.6%は女性であり、年齢構成は35歳から64歳までの中高年層を中心とするねぎぼうず型となっており、24歳以下の青年層は皆無である。これまでの鮮魚行商活動は、漁家において得意先を次世代に受け渡すことによって継承されてきており、育児期を過ぎる頃から嫁世代が行商に出ていた。 今後の後継者不足は深刻化しているが、漁家が極めて零細であり専業漁業では成立しにくいことに起因して、今後も副業は継続していくと考えられるため、若い嫁世代が現代的なパート就労と伝統的な行商のどちらを選択していくのかが、今後の「いただきさん」の動向を左右するもっとも重要な影響要因として挙げられる。
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