本研究では、無配線コンピューティングのためのバイオ素子に関する基礎実験ならびに性能評価を行った。 1.バイオ素子の機能は、溶液中の基質分子を識別する「並列選択機能」と分子情報を放出する「並列出力機能」に分けられる。まず、並列選択機能にかんしては、複数の酵素を表面に固定化した多酵素センサが要求される。本研究では、グルコース酸化酵素、ガラクトース酸化酵素およびアルコール酸化酵素をアルブミンとともに固定化した3酵素センサの試作に成功した。またその過程で、多酵素センサ自体が、溶液中の基質濃度ベクトルに対する重み付き線形加算特性を容易に実現できることが明かになった。今後は、このようなアナログ動作および分子の拡散・反応過程を反映したバイオ素子のモデル化が重要であると思われる。 2.一方、並列出力機能に関しては、電気信号により酵素反応の活性を調節し、目的とする物質の生成を制御することが必要になる。当初、このためには、酵素を固定化した特殊な導電性高分子膜が必要であると考ていた。しかしながら、酵素や過酸化水素などが第2の基質として関与する酵素反応系では、この第2の基質の濃度を通常の電極反応を利用して調節することにより、等価的に酵素反応を制御できることが判明した。このためグルコース酸化酵素を固定可した白金電極の系について、実験システムを構成し、予備実験を完了した。 3.上記の並列選択・出力機能を結合して、バイオ素子を構成した場合の動作を計算機上で模擬し、速度評価を行った。この結果、10mum程度に集積化されたバイオ素子によるリング・オシレータは、約30msの周期で発振することが明らかになった。今後は、配線によらない超並列演算が、全体のアーキテクチャに対してどの程度の効果を有するかということについて、定量的に評価していく必要があると考えられる。
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