積雪融雪期における積雪から渓流への酸性汚染物質の流出の実態を把握するために、約35haの実際の山地小流域を試験流域として設定し、降水、積雪、渓流水の水量とそれらに含まれる陰イオン量の変動の解析を行った。また渓流水への陰イオンの流出を表現するシミュレーションモデルの作成を試みた。 本地域では例年3月以降、積雪は全層にわたってザラメ化し、その中に厚さ数mm〜数cmの氷板層がいくつか形成される。積雪の分析結果より、積雪のイオン濃度の縦断面プロファイルを求めると、積雪内の氷板を含む層で陰イオン濃度のピークが見られた。また、この氷板を含む層では積雪のpHも隣接する層より低かった。これらは、上層から流下してきた高陰イオン濃度の融雪水がザラメ雪層内の氷板形成部に滞留し、隣接する層の積雪よりも陰イオン濃度の高い層が形成されたために起こった現象であると考察された。ただ、氷板が形成されるタイミングと、高イオン濃度の融雪水が積雪内を流下するタイミングとのかねあいにより、氷板層でのイオン濃度が大きく影響されるものと考えられ、今後より詳細な検討が必要であると思われる。 シミュレーションモデルの作成については、まず、地面より下の部分のモデルを作成するため、非積雪期の実測データを用いてモデルの作成を行った。従来流出解析に用いられているタンクモデルに、土層内に存在するイオン量を加味したモデルを作成した。実測された湿性陰イオン降下量をもとに、河川水とともに流出する陰イオン量の変動を日単位でシミュレーションした結果、計算値は概ね実測値を再現した。次に、積雪内での溶存物質の移動をシミュレートするモデルの作成を行ったが、現在のところまだ満足できるものは完成されていない。
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