学習、記憶に重要な部位である海馬における神経情報処理過程を明らかにする目的で、ラット海馬スライス内を神経興奮が伝幡する様子を、光学的測定法により観察し、解析した。 細胞-Schaffer側枝-CA1錐体細胞という、古くからの解剖学的知見による神経回路を基に行われていた。今回の研究により、海馬スライス内には上記の経路以外に、CA2領域が関与する興奮伝幡経路が存在することが明らかとなった。 海馬側頭部から、海馬長軸に対して右斜め45度の角度で切り出した標本で、mossy fiberを電気刺激してCA1で活動が記録されるスライスを実験に用いた。膜電位感受性色素RH482(0.1mg/ml)によりスライスを染色し、ツアイス倒立型顕微鏡に設置した灌流用チェンバーで、mossy fiberを電気刺激した際の各領域の電気的応答を、微小ガラス電極法と光学的測定法にて記録した。光学的応答は、フジフィルムマイクロデバイス社SD1001を用いて、スライスの透過光量の神経興奮による変化分を400倍に増巾して、0.6ms/フレームの割合で記録した。 電気刺激と同時にmossy fiberが興奮し、顆粒細胞が逆行性に応答し、CA3のSt.radiatumに興奮が伝わった後、CA3のSt.oriensに興奮が観察された。直ちにCA1のSt.rad.の樹状突起の先端部にSchaffer側枝の興奮と思われる応答が記録されたのと同時に、CA2領域に応答が見られた。CA2の興奮は約3ms続いた後、CA1のSt.rad.の起始部及びSt.oriensに興奮が伝幡する様子が観察できた。CA1は、Schaffer側枝を介した興奮から約3ms遅れて、再びCA2を介した興奮を受けることが確認された。 今後、このCA2を介する神経興奮伝幡経路の性質を解明し長期増強、抑制にどのように関るかを考察する。
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