研究概要 |
1,1'-ビナフタレンは、8位と8´位の水素間の立体障害によりナフタレン環を結ぶ結合の回転が阻害されるため軸性キラリティーを有している。そのため光学活性体へと分割することが可能であるが、室温では短時間でラセミ化することが知られている。一方、2位と2´位に置換基を有する光学活性な1,1´-ビナフタレン誘導体は、8位と8´位の水素間の立体障害に加え、2位と2´位の置換基の立体障害のため容易にはラセミ化をしない。本研究では、2位と2´位に置換基を有する光学活性1,1´-ビナフタレン誘導体と4位と4´位に置換基を有する光学不活性な1,1´-ビナフタレン誘導体からなる新規ビナフタレンポリマーを合成し、溶媒や温度などの外部刺激により、光学不活性なビナフタレン骨格に光学活性ビナフタレンのキラリティーを転写可能かどうかについて検討を行なった。これまでに光学活性な1,1´-ビナフタレン誘導体からなる高分子は数多く報告されているが、本研究のような試みはこれまでに報告されていない。目的のビナフタレンポリマーは、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦カップリングにより3位と3´位にボロン酸残基を有する光学活性な1,1´-ビナフタレン誘導体と3位と3'位に臭素を有する光学不活性な1,1´-ビナフタレン誘導体を縮合することにより合成した。同様の手法を用いて、対応するオリゴマーもモデル化合物として合成した。現在、得られたポリマーおよびモデル化合物の円二色性スペクトルを様々な溶媒や温度で測定することにより、光学不活性なビナフタレン骨格に光学活性ビナフタレンのキラリティーが転写されるかどうかについて、詳細な検討を行なっている。
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