近年分子デバイスを基礎として集積回路の構築を目指す、いわゆる分子エレクトロニクスの研究が日本を始めとして欧米各国で盛んに行われている。単一分子デバイスによる超高性能情報技術を確立するためには、まず単分子の電気特性を計測すると言う課題を克服しなくてはならない。これまでに様々な手法で電極間に分子を架橋した系における伝導特性の評価がなされてきたが、分子との接触抵抗や1分子の電気的測定が実証されているか等の問題点があり、十分に説得力のあるデータはあまりない。よって、実験と比較検討するための理論的手法の確立が必要となる。 本研究では分子ナノワイヤーの電気的特性に関する情報を非平衡グリーン関数とランダウアモデルを用いて理論的に評価した。シミュレーションに用いられたプログラム又はコードは市販のものと独自に開発したものを併用した。対象となる系として分子(ポルフィリン誘導体やフォトクロミック分子)が2つの金電極に挟まれる構造、あるいは基盤上の分子にSTMチップが接続されている構造の分子ジャンクションを用い、分子デバイスの電流電圧特性、スイッチング、整流作用を評価した。ポルフィリン誘導体についてはその電子状態がpHに依存性しているためにpHによって分子スイッチングが起こることが理論的に示唆された、またフォトクロミック分子についても光照射による配座の変化に伴う電子状態の変化によって分子スイッチングが起こりうることを理論的に示した。
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