本研究の目的は、分子系統学的手法の中でも、その信頼性が非常に高いことが知られている「SINE法」を指標として、多岐にわたるヒナコウモリ科内部の系統関係を明らかにすることである。 今年度は、ヒナコウモリ科の中でもMiniopterus属に関する系統関係にスポットを当てた解析をおこなった。Miniopterus属は多くの種を含むことが知られるが、それらの種間の系統関係、および単系統性については議論の多い分類群である。まず、Miniopterus属の包括的な系統解析を目指し、偏りのないサンプル収集をおこなった。すでにMiniopterus属のサンプルは多数保持しているが、これを補完するために、沖縄県より希少種であるMiniopterus fuscusを捕獲した。さらに、東南アジア・オセアニア地方固有のMiniopterus pusillusならびにMiniopterus australisを入手するべく、交渉中である。 ヒナコウモリ上科のゲノム中には、VES-SINEが特異的に分布することがすでに知られており、本研究においては、このVES-SINEの挿入パターンを指標の一つとして用いる。Miniopterus属に関する系統解析をおこなうにあたって、VES-SINE配列群からサブグループを検出し、これらの中から適切な増幅活性時期を持つグループを解析に用いる必要があるため、現在、Miniopterus fuscusのゲノムライブラリーを作成し、ここからVES-SINE配列を多数単離して、これらの解析をおこなっている。また、VES-SINEの他にも、ヒナコウモリ科ゲノムに分布する新規のSINEの発見を目指し、ランダムシーケンスによるSINE配列の検索をおこなっている。
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