研究資料の収集および天台学研究への初期導入は計画通り行った。 1.研究の基本資料を関西地区の大学図書館などを中心に収集した。 2.中国への大森哲学の翻訳紹介の準備段階として、大森荘蔵の略歴及びその哲学概要をまとめ、中国語に翻訳した。 3.大森哲学の翻訳については、少し変更があった。当初の計画では、<ことだま論-言葉と「もの-ごと」>の翻訳を先に行い、<知覚の因果説検討>を来年度にする予定でしたが、中国の哲学現状を再考した結果、初期大森哲学<知覚の因果説検討>の翻訳を先に行った。また、計画外の訳注も今年度中に完成する予定。さらに、<知覚の因果説検討>をより理解しやすくするために、中期大森哲学の<表象の空転>という論文の翻訳も追加して行っている。翻訳は、共同研究者と共に一語一語検討しながら行った。 4.天台教学研究への初期導入として、昨年11月<天台教学における「唯心偈」と天台教学研究 -観察と解釈の問題を巡って->をという題の下で、天台学会(東京・大正大学)で口頭発表した。『天台学報』第48号に掲載する予定。本論は、大森荘蔵による「物と心の二元論」批判と共に、初期の大森荘蔵にも関わった、科学哲学者ラッセル・ハンスンの「観察と解釈」の考えを取り上げながら、天台教学の基礎となる「唯心偈」の解釈を試みた。従来では、「唯心偈」を客観的な観察対象として研究解釈を重ねってきたが、客観的対象として捉えるには、心が一つの対象に成り得るかどうかという問題がある一方、その解釈の前提に二元論がある。大森哲学が明らかにしたように、二元論的見方は物事が「見えている」という状況を誤解したものである。本来は心ある世界を「立ち現れる」のである。それはまさに天台の教えである「唯心偈」が語ろうしているところと大きく重なっている。 5.以上において、マークアップされたChinese Buddhist Electronic Text Association(CBETA)および天台宗典編纂所提供のデータベースを利用して研究を行った。
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