研究概要 |
CdTe量子ドットの励起子緩和過程や単一量子ドットのダイナミクスに対する周りの媒体(マトリックス)の効果を種々の顕微分光法により解析した。その結果,ポリビニルアルコール(PVA)とトレハロースを媒体に用いた実験では,トレハロース媒体の方がPVAを用いた場合よりも、発光時間(on-Time)が長いことを単一分子分光で明らかにした。今回,マトリックスの効果をより明確にするために,CdTe量子ドットをシラン化し,発光寿命や発光量子収率およびcwグリーンレーザーを励起光とする単一分子分光により解明した。さらに,CdTe量子ドットを幾つかのpH条件で合成し,その後さらに溶液のpHを変えそれが光物性に与える効果をスペクトルや寿命解析および走査プローブ顕微鏡により調べた。 CdTe量子ドットのシラン化に関しては,スピンコート試料のAFM測定によりシラン化によってどの程度サイズが大きくなったかを解析した。その結果,表面が約4nm厚くなっており,シラン化による効果を確認した。吸収・発光スペクトルは,シラン化によって数nm短波長シフトし,また発光量子収率も少し減少した。それに対応して発光寿命もわずかながら短くなったが,単一量子ドット分光では,従来の保護剤のみのCdTe量子ドットで明確な発光明滅が観測されるにもかかわらず,シラン化によって発光明滅がかなり抑えられることをはじめて見いだした。発光明滅はオージェ効果等によってイオン化されたCdTeによるものと考えられているが,周りをシラン化することにより逆電子移動がかなり早く起こっているものと予想される。一方,pHを酸性側にすると発光量子収率が上がり寿命も長くなる現象が観測された。この現象はpassivationされていない粒径の小さなCdTe量子ドットで顕著に見られた。走査プローブ顕微鏡測定により,pHを下げることにより粒子間の会合が促進される事が明らかとなった。吸収や発光スペクトルも変化するので,会合により表面準位の割合が少なくなり寿命が長くなるものと推測された。
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