不斉記憶型分子内共役付加がキラルエノラート経由の反応であるにも関わらす、室温条件下に高エナンチオかつ高ジアステレオ選択的に進行すること、さらに生成するジアステレオマー間でラセミ化を伴わない平衡が存在することを見い出した。分子内にMichael受容体を有するα-アミノ酸誘導体を室温条件下、塩基KHMDSで処理し、分子内共役付加よる環化成績体の多置換インドリンを2種のジアステレオマー混合物としてジアステレオ比9:91、それぞれ95%ee、93%eeで得た。本反応は-60℃条件下には2種のジアステレオマーを58(98%ee):42(97%ee)の比で与える。一方、60(93%ee):40(93%ee)のジアステレオマー混合物をKHMDS/DMF/0℃の条件下に付すと6(91%ee):94(92%ee)のジアステレオマー混合物を与えた。即ち0℃及び27℃での本反応がretro-Michael反応による平衡の結果であり、エノラート間での平衡が存在するにも拘らずラセミ化を伴わない極めて稀な現象を含むものであることが分かった。次にこのラセミ化を伴わないキラルエノラート間の平衡が多置換インドリン誘導体のみに特異的な現象であるかどうかを検討するため、より単純な構造の基質を用いて多置換ピロリジンの合成を検討した。速度支配が優位な反応条件(KHMDS/THF-DMF/-78℃)で反応を行ったところ、多置換ピロリジンの2種のジアステレオマーが80:20の比でそれぞれ91%ee、94%eeで得られた。一方、熱力学支配が優位な条件(KHMDS/DMF/0℃では11(97%ee):89(97%ee)のジアステレオマー混合物が得られた。以上のようにジアステレオマー間での速度支配及び熱力学支配を利用してジアステレオマーを作り分けに成功した。また同様の反応を6員環合成についても検討し、ラセミ化を伴わないキラルエノラートの平衡過程が不斉記憶型分子内共役付加では一般性のある現象であることが分かった。
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