研究概要 |
今年度は不斉記憶型環化により得られる多置換複素環の利用を視野に入れ、これらの多置換複素環と類似の複素環を基本骨格とする求核触媒を用いるアミン類の速度論的分割に取り組んだ。 アミン類は通常、無触媒下にアシル化を起こすため触媒的速度論的分割は極めて困難で、これまでは特殊な構造のアミンを基質する数例が報告されているのみである。そこでアミン類の中では比較的反応性が低い芳香族アミンで、かつ立体的要因からも反応性が低いと考えられるビナフチルアミンを基質に選び検討を行った。種々の置換基をピロリジン環上に持つ(多置換複素環)4-ピロリジノピリジン(PPY)-型不斉求核触媒を合成し検討を行ったが、単一溶媒中、室温での反応では選択性の指標であるs値は最大でも1.8に止まった。一方、同触媒をトルエン:クロロホルム(10:1)溶媒中、イソ酪酸無水物をアシル化剤とし、反応を-60度で行ったところ、回収されたビナフチルアミンの光学純度が94%eeで(61%変換率)、s値は14に達した。この触媒的速度論的分割はPPYを触媒とした時より速く進行し、種々の1,1'-binaphthyl-8,8'-damineで高い選択性を示すことがわかった。アミン類の触媒的速度論的分割はこれまで2例が報告されているが、何れも特殊な構造のアシル化剤を用いるもので、市販の単純な酸無水物をアシル化剤とする高選択的速度論的分割はこれが最初の例である。
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