薬用植物は、生理作用をもつ一種独特の植物であり、多くの天然生理活性化合物を含んでいる。薬用植物由来の天然生長抑制物質の有効利用によって、実際農業における雑草防除や病害虫防除が可能となり、これは減農薬農業をもたらし、自然環境との調和のとれた生態系の維持にも貢献すると考えられる。本研究の目的は、薬用植物から化学除草剤や殺菌剤の代替となる天然化合物を見出し、将来安全性の高い天然化合物による生物的除草剤・殺菌剤開発に関する基礎知見を得、省農薬農業技術確立に資することにある。これまでに以下の結果を得た。 1.九州暖地に生育する多数の薬用植物を供試し、それらの植物体抽出液(水または75%メタノール)がレタスならびに水田雑草(ヒメタイネビエやコナギなど)の発芽ならびに生育に対する影響を検討したところ、強い抑制効果のあるリュウノヒゲ(Ophiopogon japonicus K)やドクダミ(Houttynia cordata T.)やビワ(Eriobotrya japonica)の3種薬用植物を見出した。 2.高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法によって、水田雑草(ヒメタイネビエ、コナギ)に対して抑制のある薬用植物であるリュウノヒゲ(Ophiopogon japonicus K.)に含まれる天然生長抑制物質の同定を行った結果、ρ-ヒドロキシ安息香酸(ρ-hydroxybezonic acid)、バニリン酸(vanillic acid)、シリンガ酸(syringic acid)、シリングアルデヒド(syringnaldehyde)、シナピン酸(sinapic acid)およびサリチル酸(salicylic acid)の6種フェノール性物質が存在したことが分かった。そのなかで、最も含量高い成分はサリチル酸(salicylic acid)であった。 また、薬用植物であるドクダミ(Houttynia Cordata T.)に含まれる生長抑制物質の同定を試み、メチ-n-ノニルケトン(methylnonylketone)、ラウリンアルデヒド(lauric aldehyde)、カプリンアルデヒド(capric aldehyde)ならびにクエルシトリン(quercitrin)のような化合物を存在することが推測できた。
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