我々は、脳アストロサイトに発現するK^+チャネルに焦点を当て、癲癇発症の分子基盤を解明することを目的に研究を行っている。このチャネルは神経活動により上昇した細胞外のK^+を迅速に取り込む役割(K^+-buffering action)を担っており、神経機能維持に重要な役割を果たしている。生体内でこのチャネルは、内向き整流性K^+チャネルのKir4.1とKir5.1から構成されている。他機関の共同研究者が、既に癲癇患者からKir5.1の遺伝子異常を同定している。アストロサイトにおいて、Kir5.1はKir4.1とヘテロ複合体を作り機能しているが、申請者は予備実験において、この変異Kir5.1をKir4.1と共に異所性発現させると、正常なヘテロKir4.1/5.1電流が観察されないことを電気生理的に見出している。しかし、変異Kir5.1が実際に癲癇発症を誘引する直接原因かどうかの実証や、またその場合の発症のメカニズムの解明は、未だなされていない。申請者は、変異Kir5.1がアストロサイトのK^+電流の特性を変化させることにより、神経回路の興奮性亢進が惹起され、癲癇発症の一因となるという仮説を立てている。この仮説を証明し、上記課題を解決するため、我々は(1)癲癇患者で見出された変異Kir5.1による異常Kir4.1/5.1電流の成立の分子基盤、(2)Kir5.1ノックアウト(Kir5.1^<-/->)マウスの解析によるKir5.1の脳機能における生理的役割と癲癇との関係、を明らかにすることを具体的な目的としている。本年度は、特に(1)について研究を進めた。癲癇患者で見出された変異をもつKir5.1とKir4.1を直接つなぐタンデムコンストラクトを作成し、培養細胞における発現を蛋白レベルで確認した。今後、電気生理学的な解析を行い、癲癇の分子基盤の解明に繋げていく予定にしている。
|