研究概要 |
高血圧は冠動脈疾患の重要な危険因子である。冠動脈疾患の進展は炎症や血栓を溶解させる生体の防御システムである線維素溶解系(線溶系)の低下により促進される。線溶系活性は転写レベルで成長因子やサイトカインにより調節されている。プラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1(plasminogen activator inhibitor type-1,PAI-1)は線溶系の主要な生理的阻害物質である。血管の内外における炎症で活性化される急性相反応は血管の血栓性動脈硬化に重要で、肝臓は急性相反応での蛋白産生の重要な源である。急性相蛋白の血中濃度の変化は肝細胞での産生の変化による。人肝癌由来の高度に分化したHepG2細胞は急性相反応のモデルである。インターロイキン(interleukin, IL)-6は多くの急性相反応蛋白の主要なメディエイターである。IL-1など他のサイトカインも急性相反応を調節する。 本研究では研究代表者および分担者はIL-1βとIL-6が肝PAI-1産生におよぼす影響をHepG2細胞で検討した。IL-1βとIL-6はHepG2細胞でPAI-1産生を増加させた。培養HepG2細胞をIL-1βとIL-6で刺激し上清に集積したPAI-1をウェスタンブロット法およびELISA法で測定するとIL-1βとIL-6単独での刺激に比べ2剤を同時投与したとき相乗作用が生じた。総蛋白濃度を測定し、サイトカインの効果はPAI-1産生に特異的であることを確認した。HepG2細胞中のPAI-1 mRNA量をノーザンブロット法で検定し、PAI-1遺伝子プロモーター活性をルシフェラーゼアッセイで測定するとIL-1βとIL-6はPAI-1転写を増加させた。ルシフェラーゼアッセイでは短縮プロモーターを用いてPAI-1遺伝子5'近接領域におけるサイトカイン応答配列は、転写開始点の上流-239〜-210bpの領域に存在するCCAAT-enhancer binding Protein(C/EBP)によることが示された。またこの配列モチーフに点変異を導入するとでサイトカインによるPAI-1プロモーター活性増加は著明に抑制されC/EBPの重要性を確認した。現在C/EBPのアイソフォームに対する抗体を用いたEMSAによりC/EBPα,C/EBPβ,C/EBPδのいずれが主要な転写調節因子かを決定中であり、得られる結果は、高血圧に合併する血栓症のへC/EBPの関与の程度の解明に貢献する。
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