研究概要 |
中枢神経系のグリア細胞であるミクログリアは一般的には単球.マクロファージ系の細胞と考えられているが、細胞起源についてはまた不明である。脳の免疫調節細胞として免疫系細胞の機能を調節する作用を持ち、さらに神経栄養因子やサイトカインを産生により神経細胞に調節作用も有している事を明らかにしてきた。最近ミクログリアにはサブポピュレーションがあることを明らかにし、それぞれが異なった役割を担う可能性を示した。我々は、脳内の抗原提示細胞であるミクログリアのサブポピユレーションによる抗原提示能の差異を検討した。その過程の抑制因子の探索を行った。体外で樹立したミクログリアのサブポピュレーション6-3細胞株とRa-2細胞株を用いて、CD4+T細胞に対する抗原提示によりTh1,Th2への分化誘導を検討した、その結果:(1)LPS/IFN-γ刺激の条件下で、6-3細胞ではRa-2細胞より強くMHC classII,CD40,B7-1,B7-2の発現を認められた。これらの結果から6-3細胞とRa-2細胞の抗原提示能が異なったことが示唆した。(2)Th1誘導条件下でミクログリアのサブプピュレージョンによるT細胞増殖能を検討するため、蛍光色素CFSEでラベリングしたナイーブT細胞を抗CD3抗体共に6-3あるいはRa-2細胞存在下で共培養し、T細胞の分裂回数を解析した、その結果、Ra-2細胞に比べて、6-3細胞は極めて顕著にT細胞の増殖を誘導した。(3)Th1あるいはTh2誘導条件下で、6-3とRa-2存在下で、抗CD3刺激によるナイーブT細胞のpolarizationを細胞内IFN-γ,IL-4染色法により解析したところ、Th1誘導条件下では6-3細胞がRa2細胞よりも圧倒的に強くTh1細胞を誘導した。Th2誘導条件下ではRa2細胞が6-3細胞よりもTh2細胞を強く誘導した。全体としては、Th1細胞の誘導がより顕著に認められた。(4)抗原特異的条件下で6-3とRa2細胞の抗原提示により抗原特異的T細胞に対して誘導能の差異を検討するため、MOGペプチド免疫した脾臓CD4+Th細胞を用いて6-3細胞あるいはRa2細胞存在下で共培養し、経時的に上清のIFN-γ,IL-2,IL-4,IL-10を測定した。6-3細胞存在下で誘導されたT細胞のIFN-γ,IL-2産生量はRa2細胞存在下より顕著でした。IL-4,IL-10の産生量は認められなかった。この結果から6-3細胞はRa2細胞よりも効率的にTh1細胞を誘導すると考えられた。 これらの結果をまとめると樹立したミクログリアのサブポピュレーションは1.抗原提示関連分子の発現が異なる 2.抗原特異的Th1細胞に対する誘導能が異なる 3.Th1/Th2への増殖、偏向誘導能が異なる 4.Th1/Th2バランスがTh1優位性に誘導する。以上、サブポピュレーションの抗原提示能の違いにより中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)の病態解明にアプローチし、新たな治療法を探索できる可能性が示唆された。
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