研究概要 |
本研究では、拍動型人工心臓への二葉式機械弁の使用可能性を検討するため、一葉式機械弁と二葉式機械弁におけるキャビテーション発生の観点から比較を行った。一葉式機械弁には以前から使用してきたMedtronic Hall弁を、二葉式機械弁にはSorin Bicarbon弁を使用し、キャビテーション気泡の発生メカニズムを検討した。本研究室で開発された電気油圧式全人工心臓を模擬循環回路に接続して駆動し、心拍数60〜100bpm、心拍出量4.5〜7.5L/minで灌流した。試験流体としては、血液と同様な粘度および飽和水蒸気圧を持つ50%のグリセリン水溶液を用いた(粘度3.4cP,飽和水蒸気圧-715mmHg)。左ポンプの流入側弁の運動が観察できるようにアクリル製のチャンバーを製作し、チャンバー上部に高速度カメラ(fx-6000,nac, Japan)を設置して、弁表面に生じるキャビテーション気泡を毎秒30,000フレームで記録した。閉鎖に伴う弁の軌跡はCCDレーザ変位センサ(LC-2450,Keyence, Japan)を用いて計測し、弁の閉鎖軌跡から閉鎖直前の速度を求めた。閉鎖直前0.3ms間の弁閉鎖速度は心拍数とともに増加しており、Sorin Bicarbon弁よりもMedtronic Hall弁の方が速くなっていた。キャビテーションの強さは弁の形状によって異なるが、いずれの弁においても心拍数の増加とともに観察時間は長くなり、閉鎖速度と同様にMedtronic Hall弁では長く、Sorin Bicarbon弁では短くなっていた。一葉式機械弁よりも二葉式機械弁の方が閉鎖速度は遅く、弁座の面積も小さいため、キャビテーション気泡の発生が少なかった。機械弁でのキャビテーション発生の観点からは人工心臓においては二葉式機械弁を使用したほうが溶血や弁表面壊食を防げると思われる。
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