研究概要 |
分子集合体については,位置・配向ともに秩序化した完全結晶が温度上昇とともに乱れを獲得し,分子形状の異方性の大小に依存して液晶などの中間相を経て等方性液体へと融解するという基本的な描像が確立している.しかし,実際にはこのようには単純化できない種々の中間相が知られており,そこでの分子運動と相転移については不明な部分が多い.本研究では,このような中間相のうち液晶関連相であるE相に注目している.Pelka博士の所属するクラクフ核物理学研究所の構造科学部門より供給を受けたアルキル鎖長の異なる化合物群(nTCB, nはアルキル鎖長)は純物質で広い温度でE相を発現する.本研究では精密熱容量測定により相転移挙動を明らかにするとともに残余エントロピーを決定し,これまでの結果を総合してE相の動的構造を明らかにする事を目的としている.Pelka博士は精密熱容量の経験がなかったので,10月の来日以降,研究グループ内で行われている実験と結果の解析について追体験し,理解を深めるとともに実験操作について習熟しつつある.間もなく予定の試料についての測定を開始する. 本研究では,Pelka博士の経験を生かし,相転移の速度論に顕著な影響を及ぼす可能性のある欠陥構造について理論的考察も予定していた.時間依存ギンツブルグーランダウ理論の枠内で単純な欠陥構造であるネマチック液晶ー等方性液体間の界面の構造と移動速度について理論的検討を行い,均一なネマチック相が安定であるために弾性定数に科せられる条件の厳密な導出,界面に許される対称性の分類,界面近傍における秩序変数の分布と界面移動ダイナミクスについて摂動論的な評価を行った.これらの成果は論文としてとりまとめ現在,投稿中である.
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