研究概要 |
発泡した珪長質マグマの中で合体した気泡群を通じて生じるマグマの浸透性は,火山噴火における脱ガス過程のモデル化のためには重要な物性と考えられている.昨年度の本研究により,減圧発泡実験による急冷試料の浸透率測定が可能となり,噴火時に起こり得る様々な減圧条件の変化がマグマの浸透性に及ぼす影響を世界で初めて実験的に調べられるようになった. これまでの実験の減圧過程は,急減圧(数MPa/s)後に一定圧力で保持し,急冷するという様式であったが,これは必ずしも噴火過程を再現したものとはいえない.今年度は噴火時の減圧履歴に近い,一定速度(0.05,0.005,0.0016MPa/s)での減圧実験の試料について浸透率測定を行い,減圧発泡過程における発泡組織の発達に伴うガス浸透率の変化を調べた. その結果,発泡度が約80%に満たない試料は検出限界以下の浸透率(<10^-16m^2)である一方で,発泡度が約80%を越えると,透気が検出され,浸透率の値が得られた.同程度の発泡度でも減圧速度が遅いほど浸透率は大きくなる傾向があった. 実験結果からの火山学的示唆として以下のことが挙げられる.火道上昇過程において珪長質マグマは発泡度が80%を越えないと十分大きな浸透率が獲得できず,効果的に脱ガスが起こる条件に入ってこない.脱ガスが起こりえる10^<-12〜-13>m^2以上の浸透率に達するのは本実験の条件では10MPa以下の圧力である.この圧力は地殻静水圧に換算するとおよそ500m以下の深さに相当する.このことは,珪長質マグマの脱ガスは500m深度より浅い火道極浅部で起こることを示唆する. また本研究が対象としている火道浅部での脱ガス過程は,ブルカノ式噴火の発生要因となっている火道浅部での増圧過程と密接に関係がある.火道浅部の増圧過程に関し,様々な分野での観察・観測から物理モデルまでをレビューし,脱ガスを支配するマグマの浸透率という物性の重要性を述べた総説を本年度は発表した.
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